船長インタビュー 松崎正彦氏

Interview

船長の醍醐味。
それは、外航船のすべてを掌握する
責任と誇り。

川崎汽船株式会社 松崎正彦氏
船全体を統括する指揮官として、航海中、船長はどのような仕事をしているのですか。
大きな役割としては、あらゆる業務・船員を統括し、船が安全に運航目的を達成できるよう指揮監督する、ということになりますが、普段はそれぞれ現場の担当者にまかせていますので、報告、承認、トラブルが起きたときの対応・ジャッジが実質的な仕事になりますね。あとは船長室での膨大な事務・通信作業。ただし、出入港時や航海の難しい局面では、船長自らが舵取りを指揮します。例えば、日本から欧州、又はペルシャ湾に向かうコンテナ船に乗るとしましょう。まず混雑する東京湾を操船・指揮し、無事、港に着けば揚荷現場責任者である一等航海士が立てたプランをもとに、ターミナル側と連携しながら荷役作業を行い、揚荷が終了したら会社への報告業務をこなし、再度混雑する東京湾を操船・指揮し、いざ外洋へ。大洋に出てしまえば比較的平穏な航海になるので、当直員や現場責任者に一任し、いざという時に備えます。シンガポール・マラッカ海峡など、これまでの経験値から航海が難しいところはある程度予測できますので、そこでまた操船・指揮を取る、といった流れになります。また入港する際は、その都度操船・指揮を執ります。エンジン関係に関しては、船長も両用教育を受けていることもあり、ある程度は把握していますが、部門責任者である機関長の意見を尊重し、トラブル時の対応に努めています。
現在は船長というお立場ですが、そもそも航海士を目指そうと思ったキッカケは何ですか。
高校の時、このまま普通の大学に行って、普通のサラリーマンになるのは嫌だなと、という思いが強くありましたね。性格的にも営業マンはとても勤まらないと思っていましたので。では、どうすればいいか、ということで、同じスタートラインに立てる分野であればと、いろいろ模索していたところ、たまたまテレビで帆船に乗った航海士の映像を目にして「かっこいいな、これもありだな」と(笑)。なにぶん高校生ですから、イメージ的なところから入っていくわけですね。そこからいろいろ学校を調べまして、神戸商船大学(現・神戸大学海洋科学部)があることを知り、入学を決めました。この大学へ行けば、おのずと道が開ける、という点が明確でよかったですね。就職口さえあれば、卒業後どこにしようか?という曖昧な悩みに苛まれることもない。学校へ行っている間に専門の勉強ができて、しかも資格取得が有利になる、ここが大きなポイントでした。
実際に商船系大学に入学してみてどうでしたか、ギャップはありませんでしたか。
学校の勉強というより、寮生活が最初はちょっときつかったですね。4人部屋だったのですが上下関係が厳しくて、当然1年生は下働き(笑)。でも、船の上は狭い世界で階級制でもあるので、結果的にはこの寮生活が人間形成をする上で凄く役立ちました。勉強の方は大変な面もありましたが、ほぼイメージ通りでしたね。学校を卒業すると、まずは3級海技士の口述試験。これを取れば船に乗ることができ、そのあとは経験と勉強を積み重ねながら、徐々に上の資格を取得していく、進むべき道が明確で迷いがありませんでした。
航海中のアクシデントなど、船長になって一番印象に残っている出来事は何ですか。
進路のジャッジも船長の重要な仕事なんですが、以前、外航船ルートで、最初が鹿児島、次が室蘭まで出なければならない場面があったのですが、大きな台風がきて、さて、日本海側から行くべきか、太平洋側から行くべきか、というジャッジを迫られ、気象情報を取りながら何日も考え抜きました。最終的に日本海側を選択し、途中、失敗したかな?という局面はあったものの、なんとか予想が的中し切り抜けられた。こういうトラブル回避の瞬間は本当によかったなという安堵の思いと同時に達成感もありますね。
最後に、これから外航船員、ひいては船長をめざす若い皆さんにメッセージをいただけますか。
サラリーマンの生活と違って、外航船員の仕事は、海が舞台なだけに日々ダイナミックな変化があり、夢とロマンに満ちあふれています。乗船するとすぐに現場をまかされるので、やりがい、手応えをダイレクトに味わえる世界。もし迷っているのなら、私のように思い切って飛び込んでみるのもいいかもしれませんね。商船学校を選択すればブレることなくまっすぐ夢に向って進むことができるし、技術職なので身に付けば一生の宝物。辛いこと、楽しいこと、いろいろありますが、一歩一歩、地道に努力を続ければ、必ず夢が叶うんだな、というのが私の実感です。また、半年近く、同僚と同じ船で生活するわけですから、良き仲間がたくさんできる、という点も外航船員ならではのポイントですね。