機関長インタビュー 渡沼英夫氏

Interview

エンジニアを目指す人にとって、
大型船は究極のステージ。

日本郵船株式会社 渡沼英夫氏
商船系大学を経て、就職、現場へとステップアップされたわけですが、夢と現実のギャップはありませんでしたか。
機関部では、船を動かすメインエンジンをはじめ、海上生活で必要な電気を作る発電機、食糧を貯蔵するための冷蔵庫など、さまざまな機械や装置を動かしています。機関士たちは各担当に分かれ現場を取り仕切り、機関長はそのすべての業務が安全かつスムーズに行えるよう監督するのが役割となっています。具体的には、毎朝ミーティングで一日の予定や注意点、安全面の確認などを徹底し、その後、エンジンルーム全体を隈なく見回ります。トラブルや問題点があればその場で指示を出し、場合によっては作業を手伝うこともあります。全長300mの大きなコンテナ船ですと、エンジンルームだけでも5階建てのビルに相当する高さがありますので、ひと回りするだけでも大変です。あとは通信業務や書類作成などのデスクワークもいろいろありますね。
航海士という選択もあったと思いますが、そもそも機関士を目指そうと思ったキッカケは何ですか。
私はもともと、機械いじりやプラモデル作りが大好きな少年でした。とくに車のエンジンに興味があったのですが、高校の時に、偶然、東京湾で貨物船を目にして「こんな大きな船、どうやって動かすんだろう?」と物凄く興味が湧いたんです。車のことが吹っ飛ぶくらいの大きな衝撃でしたね。その後、船の学校をいろいろ調べてみたら、東京商船大学(現・東京海洋大学)という専門の学校があることを知り、何のためらいもなく進学を決めました。
海に出ることに関しては多少抵抗がありましたが、船酔いするタイプでもなく、実習も予想以上に楽しかったので、いつの間にか不安もなくなっていましたね。
商船系大学を経て、就職、現場へとステップアップされたわけですが、夢と現実のギャップはありませんでしたか。
まず、エンジンの大きさには驚きました。それから、いろんな機械がそれぞれ役割を持って、それがひとつに繋がってはじめて船は動くことができるんだ、ということを改めて理解し、感動しましたね。高校の時に思っていた「どうやって動くんだろう」という疑問が少しずつ見えてくる喜び、といった感じでしょうか。
ただ、いまでこそ監督役としてエンジンルーム全体を冷静に見渡すことができますが、若い頃は責任をまかされた機械の保守・整備にとにかく無我夢中でした。
航海中のアクシデントなど、これまで一番印象に残っている出来事は何ですか。
乗船して初めて担当した冷凍コンテナが故障した時ですね。機関長に自分のプランを提案し、なんとかその危機を乗り越えたときは「この世界でやっていける」という自信がつきました。陸上にいると、何かアクシデントが起きてもいろんなサポートを受けることができますが、船上では自分たちの力でなんとかしなければならない。
各機器のトラブルを最小限に抑え、船をスケジュール通りに運航することができた時には、まさに船の"生命線"でもある部分を我々が動かしている、というプライドが芽生えた瞬間でもありました。
機関長として苦労する点、またはやりがいを感じる点は何でしょう。
若い時は担当している機械の面倒を見ているだけでよかったのですが、機関長となった今、エンジルームの機械、装置はもとより、乗組員の安全、職場の環境づくりなど労務管理にも気を遣わなければなりません。その辺りが大変な点でもありますが、若い世代、外国の人たちをうまく調和させ、その都度、いいチーム作りをしながら航海を無事成し遂げたときには達成感といいますか、大きな喜びを感じますね。また、天気や海水温度も日々変わるので、船長とコミュニケーションを図りながら気象状況を判断し、その辺りをいかに先読みして対応していくか、というところもやりがいのある部分です。
最後に、これから機関士として外航船員をめざす若い皆さんにメッセージをいただけますか。
自分たちの手でエンジンを動かし、電気を作り、水を作り、船上での生活の場を作り上げていく、まさに航海を支える縁の下の力持ち。私たちがいなければ船は動かないんだ、という部分が、機関士という仕事の最もやりがいを感じるところですね。また、船のエンジンルームは機器全般広範囲に勉強もできますので、エンジニアを目指す方にとってはこれ以上の環境はないと思います。大きい船でいろんな国へ行けて、いろんな人たちとの出会いがある外航船員の仕事は、とにかくスケールが大きいです。世界を舞台にダイナミックに活躍したい方は、ぜひ、思い切ってチャレンジしてみてください。