航海士インタビュー 坂部憲介氏

Interview

操船の楽しさ、自然の美しさ、
そして日本経済を支える
使命感に魅せられて。

株式会社商船三井 坂部憲介氏
階級ごとに多少違いはあると思いますが、航海士の主な仕事を教えていただけますか。
航海士の共通の仕事として"操船"があります。船は24時間動いていますので、一日二回の当直を二人一組(航海士+クルー)で行います。船によって違いますが、通常、三等航海士が8時〜12時と20時〜0時、二等航海士が12時〜16時と0時〜4時、そして一等航海士が16時〜20時と4時〜8時、をそれぞれ受け持ち、これを回しながら24時間、誰かが必ず見張りを行う当直体制をとっています。階級ごとの仕事としては、三等航海士は消火設備や救命設備の保守・整備と事務作業、私のような二等航海士は船橋(操船を指揮する場所)にある各計器の保守・整備と航海計画の立案が主な仕事となります。一等航海士になりますと、荷役(荷物の積み下ろし)の指揮監督、クルーの統括など、現場の取りまとめ業務がメインとなります。
他の職業、あるいは機関士など選択肢はいろいろあったと思いますが、航海士を目指そうと思ったキッカケは何ですか。
高校は普通科に進学したのですが、大学は何か明確な目標を持って進学しようと決めていました。そして「将来、自分は何になりたいのかな?」と考えた時に、ふっと浮かんだのが海でした。愛媛の海に近い環境で育ったこと、そして父が外航船員だったことも大きかったと思いますね。父が働く船を見に行ったり、いろんな航海の写真を見たり、そういった小さい頃の記憶や思い出が「海に関係する仕事に就きたい」と自然に導いてくれたのかもしれません。大学は東京商船大学(現・東京海洋大学)ですが、航海士を選んだのは単純にカッコイイと思ったからですね、なるなら船長だ!と(笑)
実際に商船大学に入学してみてどうでしたか、イメージ通りでしたか。
現在は強制ではないと聞いていますが、昔は寮に入らなければならず、上下関係も厳しかった。実習も練習船に乗ると、指導もハードでしたね。ただ、今振り返ってみると、航海士になるための人間形成といいますか、あの厳しさがあったから、今の自分があると思っています。また、実習を通して航海の楽しさを実感できたことも大きかったですね。例えば、航海に出ると日本各地のいろんな風景を見ることができました。学生の実習でもこれだけ堪能できるのだから、世界を舞台にした会社に入ればもっと凄い感動が待っている。そう思うと、こんな素晴らしい夢のある職業はないと思いましたね。
商船大学を経て、就職、航海士としてキャリアを積む中で、学生時代に描いた夢やロマンと現実の間にギャップはありませんでしたか。
たしかに学校とは全然違いましたね。会社に入ると、次席三等航海士として乗船し、次の航海からは首席三等航海士としていきなり現場をまかされます。やはり船のサイズも、仕事の規模も、航海のスケールもケタ違いに大きいので、最初、船橋に立ったときは足が震えました。学生のときですら練習船で操船をしたことがなかったのに、いきなりスケールアップした船でまかされるわけですからね(もちろん船長がどこかで見守ってくれていたと思いますが・笑)
航海士の仕事の中で一番手ごたえ、あるいは魅力を感じるところはどこですか?
やはり操船が一番の醍醐味でしょうか。基本的に実際の舵取りはクルーが行い、航海士は指揮を取るわけですが、例えば、漁船が混んでいる場面で、うまく道を作って切り抜けた時は気持ちがいいですね。操縦する楽しさ、それは船もバスも電車も飛行機も同じなんですね。また、先程もお話しましたが、スケールの違い。私たちはクライアントさんから預かった荷物を安全にお届けすることが仕事ですが、トータルで考えると何億も動かしているわけですから、日本の経済を動かしている、というか意識が生まれてきます。責任の重い仕事だからこそ、やりがいも大きいですね。あと、自然の美しさ、これも大きな魅力のひとつ。いつだったか、オーストラリア沖で見たグリーンフラッシュには本当に感動しました。
最後に、これから航海士、ひいては船長をめざす若い皆さんにメッセージをいただけますか。
何より、一度船に乗って、あの風景を見たら、それだけでやみつきになると思います。自然と常に対峙しているわけですから、自分がどれだけちっぽけな存在か、いろいろ考えさせられ、人間的にもどんどん磨かれていく。そういったところも航海士をお勧めしたい部分ですね。もし、海への夢や憧れがあるなら、まず学校に飛び込んでみること。語弊があるかもしれませんが、商船大学や高専を出たからといって、船の道だけに限定されるわけはありません。描いていた夢と違っていても別の道を選ぶこともできます。ただ、私が保証します、一度航海の素晴らしさを知ったら、もう元には戻れませんよ。