国立大学法人 神戸大学
海洋政策科学部
外航船員は重い責任があるからこそ
自分を成長させてくれる
海洋政策科学部 海洋政策科学科 海技ライセンスコース 機関学領域 4年生鈴木亮太朗(すずき・りょうたろう)さん
海洋政策科学部 海洋政策科学科 海技ライセンスコース 航海学領域 4年生竹内もも(たけうち・もも)さん
外航船員を目指す学生にお話を聞きました。(左:鈴木さん、右:竹内さん)
鈴木 亮太朗(すずき・りょうたろう)さん
機関士は世界中の人々の生活を
支える“誇れる仕事”
「唯一無二の体験ができますから、神戸大学に入学して後悔することはありません」
A:大学進学を考えた時から外航船員になりたいと思っていましたが、機関士か航海士かは決めかねていました。最終的に機関士を目指そうと思ったのは、僕がもともとエンジニア志望だったからです。AIによって奪われる人間の仕事が話題になっていたこともあり、機関士の仕事をAIがやるのは無理だろうと考えたのです。経験やフィジカルな感覚が重要な仕事ですから。学ぶ中で万一自分に機関士に向いていないと気づいた時でも、他の働き方ができるスキルを身につけられるのは、機関学領域だと思うようになりました。
Q:選択したコースのよいところや自慢できるポイントを教えてください。A:なんといっても授業のレベルの高さです。メインとなる大学物理の授業は、物理学を専攻している人向けのレベルなので、ついていくのは大変ですが、大学院への進学が容易にできるほどの学力を手にできます。あとは、抵抗推進工学を教えてくださった内田誠先生の授業は素晴らしかったです。機関学領域は座学が多く、この授業も数式がたくさんでてくるのですが、説明に熱がこもっていて、面白くてわかりやすかったです。
機関室にて。「機関士は経験や知識、感覚を総動員しないと対応できない」
A:ダントツで3年次の船舶実習が印象深いですね。日常とかけ離れた生活ができて楽しかったです。朝6時に起きて、6時半には全員が甲板に上がり、敬礼して、国旗が掲揚されていくのを見る。最初は言われるがままやっていたのですが、海事産業、つまり日本の物流を支えるという大事な仕事を僕らは担っていくんだという自覚みたいなものを実感できたんです。僕らがこういう仕事に就くために税金で船を動かしてくださっている。いろいろな人からの期待も感じられ、実習中は生き生きと活動していました。エンジンルームで実習することが多いのですが、沈没を想定して降ろしたボートに乗り移る訓練や、火事を想定して消火活動や避難訓練などもかなりやりました。
大変だった思い出として、まず思い浮かぶのは資格試験の勉強ですね。理由は、まだ働いていないのでイメージしにくい中での学習になるからというのが一つ。もう一つは、資格試験の勉強をしていた頃は、物理系テストが1日に5個もある日々と重なっていました。一つでも落とせば留年の可能性が極めて高くなる切羽詰まった状況だったので、仲間とともに泣いたり叫んだりしたりしながら毎日勉強したのを覚えています。
学業が忙しくて、自由な時間がなかなか取れない学生生活でしたが、ささやかな趣味として、ウイスキーやジンを買い集めては、1日の終わりに飲み比べをしていました。
A:授業で機関士の仕事について知るほどに、職人みたいでかっこいいなと思うようになりました。機関士の先生はベテランなので、例えばネジが緩んでいることを、打検(打音検査)と言って、叩いた時の音の違いで察知するんです。また、海水が漏れる、つまり浸水が発生したときには、ベテランになると湿度が上がるというんですね。それを敏感に察知する。マニュアルを勉強したからといってできない。深い経験と感覚を研ぎ澄ましてこそできる職人的な技。AIにはできないだろうし、惹かれるところです。
将来は、後輩や先輩と船内で仲良くできる機関士になりたいし、世界各地のことを詳しく知りたいです。機関士は、世界を股にかけて仕事をすることができ、自分の中の世界が広がりますし、なにより世界中の人々の生活を支える仕事なので、人生をかけて取り組むだけの価値があり、かっこよく誇れる仕事です。大学でも、唯一無二の体験ができますから、入学して後悔することはありません。
竹内 もも(たけうち・もも)さん
どんな時も船の雰囲気を明るくできる
航海士になりたい
どんな時も明るくいられるような航海士を目指す。
A:祖父母の家が瀬戸内海に面している兵庫県明石市にあり、遊びに行くうちに海への憧れを抱くようになりました。実家のある大阪からJRに乗ると、須磨あたりから明石海峡が見えて、そこを船が行き交う景色が魅力的でした。英語と地理が好きだったので、いつかは自分もあの船に乗って、世界中を旅してみたいと思ったのです。神戸大学を受験したのは実家から通えるからです。
Q:印象に残っている授業はありますか?A:1年次に受けた「海のアクティブラーニング」という授業で「海神丸」に初めて乗った時、とても楽しかったのです。船の設備やどんな人が働いているかを知る初歩的な授業なのですが、この船に乗ってもっとたくさんのことを学びたい、大きな船を操船してみたいという思いが、航海学領域の選択につながりました。
4年次の「船舶実践運航論」も印象的でした。他学年や他領域の人が研究船として海神丸に乗船する際に、私たちが運航側として乗船し、より実践的なことを学ぶ授業です。3年次までの乗船実習と違うのは、参加する学生が3~5人と少ないところです。人数が少ない分、操船する機会がたくさん与えられ、出入港の作業では自分で判断を下したこともありました。出航するときに、キャプテンの指示にしたがって係留索を外す体験をしたのですが、責任が伴う作業で、緊張しました。航海士として働くための第一歩を踏み出すことができた授業でした。
他学部や他領域の学生と共に学んで刺激を受けられるのは、神戸大学ならではのカリキュラムだと思います。例えば1年次は、他学部で開講する教養科目を受講することができ、2年次以降も副専門領域として他領域の授業を履修することができます。4年次では「海のBDL」という授業で、他領域の学生とグループワークを行います。領域を超えて専門知識を教え合いながら課題解決に取り組むことができ、専門知識とその解決策を、週1回、4か月という長い時間をかけてじっくり議論し、パワーポイントを使いながら発表しました。
操舵室にて。コンパスで確認しながら船を正しい方向に動かす。
A:1年生から、2本の縄を使った競技を行う「ダブルダッチサークル」に所属していましたが、3年生からは女子カッター部に入り、全日本カッター競技会にも出場しました。ライセンスコースの同期の女子6人はみんなカッター部に所属していたのですが、乗船実習中に、部員のみんなが私の誕生日にケーキを用意してくれ、部屋を飾り付けしてサプライズのお祝いをしてくれたことは忘れられません。
Q:航海士になることを決めましたが、決め手は何だったのでしょう? またどんな航海士を目指しますか?A:決め手になったのは、3年次のJMETS(独立行政法人海技教育機構)の乗船実習です。特に、沖で錨泊をしている状態から錨を揚げて門司港に入港するという、短いけれど非常に緊張感のある航海を体験でき、航海士の役割を実習したことが印象深いですね。前日から入港時の潮汐を調べたり、航行する予定の航路や付近の地形を把握したり、作業の手順を何度も確認しました。無事にやり遂げることができた時は、今までに感じたことのないくらいの達成感を味わうことができました。これからもさらに成長して、より大きな仕事をやり遂げたいと思ったので、外航船の航海士になることを決めました。
希望がかなったら、どんな時も明るくいられるような航海士になりたいと思っています。長時間の航海や天候によって、船は厳しい環境に置かれることも少なくありません。また、船は閉鎖環境なので、船の雰囲気が悪いと、安全運航にも影響を及ぼすと言われています。女子カッター部では主将を務めていましたが、ひとりの明るい言葉や前向きな態度が、艇全体の雰囲気を良くし、みんなのパフォーマンスが上がることを身をもって学んだこともそう思う理由です。
外航船員を目指すことで、自分の見ている世界が広がります。船から見える美しい景色や、一緒に実習を頑張る同期との思い出、楽しいこともつらいこともすべて、この道を選ばなければ得られなかった経験ばかりです。目標をもって大学生活を送れば、一生忘れることのない4年間を過ごせると思います。
鈴木さんは機関士、竹内さんは航海士として就職先が決まっています。
責任は重いけれど、学ぶ中で自分を成長させてくれるし、なによりやりがいのある仕事だ、と口を揃えます。
世界中の人の生活を支えるために大海原へと漕ぎ出します。
思い出深い練習船「海神丸」をバックに敬礼(2025年11月取材)